マスターとサブマスター(2) - レコーディングの変化

こんにちは!広報課のhiroです。

前回は「MASTER」と「SUB MASTER」のシールをきっかけに、ヒビノサウンド Div.にあるレコーディングセクションのチーフエンジニア熊田さんを訪ねて、マスターメディアを見せてもらい、お話を聞きました。

今回は、その続きです!


前の記事:マスターとサブマスター(1) - 唯一無二の存在


さて、録音機器や音の記録媒体は、アナログ(テープレコーダー&磁気テープ)からデジタル(ProTools & HDD(ハードディスクドライブ))へと時代と共に変化しましたが、“録音で変わったと思うこと”はなんですか?と、かなり広義な質問を熊田さんに投げかけたところ、まず「いろんな意味で便利になり、今まで出来なかったことが出来るようになった点だ」と教えてくれました。


デジタル化や技術の進歩によって出来ることが増えたのは、写真や映像などの業界も同様ですよね。

レコーディングにおいても、昔だったら出来なかったことが、高度な品質で容易に可能となりました。

エフェクトの種類も豊富になり、“もうなんでも出来ちゃう!”・・・という訳ではありませんが、そう言いたくなるくらい音の加工方法や処理する技術は、変化しました。

表現を変えると、録音後からの処理で、何とか出来ることが増えたとも言えます。

人によっては、録りは30分(早い!)その後の加工&Mixに3日間(えっ!?)なんて話を聞くこともあるとか。

後処理に依存しているという事ではありませんが、機器や技術が変化したことで、レコーディングのスタイルも、多少変化していっているようです。


また、デジタルでは、以前の設定を復元し、再現することは容易なことですが、アナログのミキシング・コンソールやエフェクターは、どんなにつまみをピッタリと合わせて以前の設定を忠実に復元したとしても、絶対に同じ音にはなりませんでした。


それに、今は「アンドゥ」や「リドゥ」といった「操作の取り消し」なんて出来て当たり前ですよね。

DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)では、画面上で音を消すアクションを実行しても、その音のデータ自体はHDDの中に残っていたりします。

消去した音を元に戻すというのは、磁気テープの時代には出来なかったことです。


昔の話になりますが、磁気テープのアナログマルチトラックレコーダーで録音を行っていた時代は、演奏の一部分だけを録り直したい場合に、アシスタントエンジニアがレコーダーを操作し、手動でパンチイン・パンチアウトという作業をしていました。

そうやって、録り直したい楽器の、録り直したいポイントだけを、上書き録音するのですが、上から録音するということは、元々そこに録音されていた音を消すということ。

録り直す部分の前後には、『OK Take』があるわけです。

アシスタントがパンチインを失敗して、新たに録り直したはずの音が欠けていたとか、うっかり前後のOK Takeを喰ってしまった(消してしまった)・・・なんて言ったら、まさに“取り返しのつかないこと”でした。


色々な面で利便性が向上し、多くのことが出来るようになってきた一方で、慎重さに欠ける傾向も見うけられるとも熊田さんは話してくれました。


これは、マスターに対しても言えることだそうで、マスターの取り扱いは、現在よりも、磁気テープの頃の方が慎重だったそうです。

磁気テープの時代は・・・、テープといっても、オープンリールに巻かれた幅が1/2インチや2インチもあるようなもので、業務用の専用レコーダーで再生・録音していましたし、テープレコーダーの調整や操作には専門知識が必要で、誰にでも気軽にコピーを取れるものではありませんでした。

また磁気テープという素材や、オープンリールというむき出しの形状から、テープ保護を意識したレコーダー操作や、置き方、保管環境まで、気を配る事項が多くあり、そこには必然的に緊張感が生まれたのかもしれません。

一方、今のマスターはHDD、いわゆるパソコン関連機器ですから、再生環境(DAW)があるかは別として、そのHDDを読み取ることのできるパソコンがあれば、皆でバックアップを取り合うことも可能です。

一定期間中なら、スタジオのワークディスク(作業用HDD)にデータが残っている可能性だってあります。


かえって安全ではないか?と考えることもできますが、安心は時として油断へとつながるもの。


これは、とても信じられないことだったのですが、HDDが簡単な故、とあるスタジオの若いアシスタントさんに、マスターメディアを消されてしまった経験があると熊田さんが話してくれました。

MASTERを消すなんて大事故は、絶対にあってはならないこと。


デジタル化が進み、利便性が大きく向上したことで、録音のスタイルも少しずつ変化しました。

しかし、マスターの“取り扱い”といった“アナログ領域の事柄”までもが、“デジタル領域の感覚”に引っ張られてしまうのは、とても危険なことです。


どうしたら事故を無くすことができるのか、他のスタジオのエンジニアさん達と膝を付き合わせ、防止策を真剣に話し合ったそうです。

しかし、このような事故は、あくまでヒューマンエラーでしかありません。


例えパソコンがHDDを認識しなかったとしても、正常にマウントできなかったとしても、HDDに「MASTER」と書いてあるならば、その中には『大切なデータが必ずある』というのが絶対的な大前提。

それを頭に叩き込ませ「マスターは1つしかないと思え!」を徹底しているのだそうです。

この「MASTER」という1枚のシールが、とても重要なメッセージを発信しているのですね。

私は、シール作りをお手伝いしただけですが、ちょっと誇らしく感じました。


さて、二回にわたって、マスターメディアなどに関するお話を書かせていただきましたが、実は、まだ、お伝えしたい続きがありまして・・・まさかの(?)三回目に続きます。

一先ず今日はこの辺で。お読みいただき、ありがとうございました。それではまた!!!