おはようございます。ヒビノ広報のhiroです。
先日、PA(コンサート音響)業務を行う当社ヒビノサウンド Div.の大阪ブランチから
「素敵なコンサートを手掛けます。おそらく日本初公開です」
との情報が舞い込んできました。
そんなこと言われたら、もう気になって仕方がない!!!目を輝かせて詳細を求めます。
公演名は「ピンポン外交コンサート」。
卓球とオーケストラが協演するクラシックコンサートのPA現場だとか。
な・に・そ・れ!
メチャクチャおもしろそう!!!
日ごろは、アリーナ、ドーム、スタジアムなどで開催されるロック・ポップスコンサートのPAを数多く担当するヒビノ。
卓球で音楽を奏でるという強烈なコンセプトもさることながらオーケストラの演奏をPAするということに大変興味があったので、ぜひにとお願いし、ピンポン外交コンサートの現場へお邪魔してきました。
- オーケストラにPAは必要か?
- PAシステム紹介
- もう最高!「ピンポン外交コンサート」(公演レポート)
オーケストラにPAは必要か?
まず、オーケストラをPAするという行為。
これ不思議じゃないですか?
生音(なまおと)で成立するはずのオーケストラにマイクロホンを向け、「スピーカーから出るPAの音」と「生音」の両方を観客へ届けるということです。
会場となる「第一生命ホール」は、クラシック音楽を主体とするコンサートホール。PAシステムを用いなくても、観客が歌声やアコースティックな楽器の音を臨場感いっぱいに気持ちよく楽しめるよう設計された最上級の音響空間です。
では、なぜコンサートホールのオーケストラ演奏に「PA」が必要なのか?
当社のPAエンジニアに聞いてみました。
まず、クラシックコンサートに対するPAの関わり方は、大きく3つに分類できます。
1つ目は、全くPAを使わない場合。(完全な生音)
2つ目は、歌など、特定の音源のみを、ちょっとPAする場合。
3つ目は、全ての音源にマイクロホンを向け、しっかりPAする場合です。
今回のピンポン外交コンサートは、3つ目の、PA規模が大きい「しっかりPAするコンサート」でした。
PAの「有無」と「規模」は、どのような基準で決まるのでしょうか?
昔のクラシック音楽、例えばバッハ、モーツァルト、シューベルト、ショパンなどに代表される古典音楽やロマン派音楽と呼ばれる楽曲は、PA機器などない前提で作られていることはもちろん、生の演奏音が私たちに耳慣れており、そう印象づいています。
一方、クラシック音楽の中の『現代音楽』は、その限りではありません。
例えば(すべてがそうではなく一概には言えませんが…)ゲーム音楽のクラシックコンサート、アニメのクラシックコンサート、映画音楽のクラシックコンサート、某夢の国のクラシックコンサートなどは、PAが入らないとああいう音にはならないのです。
制作段階からPAを入れることを前提に作られています。
つまり、クラシックコンサートへのPAの有無の判断基準としては、まず「作品のコンセプト」があって、その作品が目指す音を実現するために生音が求められる場合もあるし、PAが欠かせない場合もあるということ。
求める音は生音だが、会場などの「環境」や「音源」の特性によって補助的にPAが必要となる場合があったとしても、やはりこれも音楽作品のコンセプトを実現させるための判断なわけです。
なるほど。納得でした。
「ピンポン外交コンサート」は、生音とPAサウンドの両方があって“完全”となる音楽作品!
それでは、PA機材を紹介していきます。
PAシステム紹介
音の「入口」から「出口」に向かう順番でピンポン外交コンサートのPAシステムをかいつまんでお見せします。
まずは音の入口。マイクロホン。
総数60本以上!
スタンドを使った設置のほか、楽器に直接クリップで取り付けるラベリアマイクなど、
さまざまな形で多数のマイクロホンがステージ各所に仕込まれていました。
いくつか紹介します。
▼ヴィオラを収音するShure “KSM141”(デュアルパターン楽器用マイクロホン)
オーボエとファゴット(それぞれトップとボトム)にもKSM141を使っていました。
▼チェロを収音するAKG “C414 XL II”(高品位コンデンサー・マイクロホン)
▼フルートを収音するAKG “C451 B”(楽器用マイクロホン)
このほか、複数のパーカッションにC451 Bを使用。
▼ピアノを収音するAKG “C414 XL II”2本
グランドピアノの中に突っ込んでいます。
▼ハープを収音するShure “SM81”(楽器用マイクロホン)2本
SM81はパーカッションの収音にも複数使用
▼ティンパニーを収音する“MD421”2本
パーカッションにも個別のマイクロホンをしっかり向けています。
▼卓球の「打音」を収音する小型マイクロホン
今回、一番おもしろかったマイキングがこれ。
選手の手首に小さいマイクロホンを取り付けて手元を狙います。
ラケットなどの道具でピンポン玉を打つ「打音」と「響き」を収音。
▼ちなみに、卓球台にもピンポンがバウンドする音を収音するAMCRON “PCC-160”(ステージ収音用バウンダリーマイクロホン)2本を仕込んでいました。ネットの近くにあるのがそうです。
つぎは、ミキシングコンソール。
▼まずは「フロント・オブ・ハウス」。客席に届ける音をコントロールするシステムです。
客席エリアの後方・中央に、ミキサーをはじめとした音響システムを設置しています。
Soundcraft “Vi6”(ライブSR用デジタル・ミキシングコンソール)
▼フェーダーを操作しているのは、ハウスエンジニア橋本氏(サウンドダリ)、写真左がヒビノサウンド Div. 大阪ブランチの鈴木さん。リハーサル中の写真です。
▼つぎは「モニター」。ステージ上の出演者が聞く音を調整するミキシングコンソールです。
モニターシステムは、上手(かみて)の舞台袖に組まれていました。
そして音の出口、スピーカー。
▼まずは、客席に向けて音を発するメインスピーカー。
ハウスエンジニアが、ミキシングした音がこのスピーカーから出ます。生の演奏音とともに、客席へと届くわけです。
今回の音楽作品には欠かせない影の奏者…といったところでしょうか。
最後は、ステージ上の出演者たちに音を届けるモニタースピーカー。
▼指揮者用 CODA AUDIO “D5-Cube”(2-Wayフルレンジ・スピーカー)
▼ピアノ奏者用 JBL PROFESSONAL “SRX712M”(2-Wayフルレンジ・スピーカー)
▼ステージ両脇からステージ内全体に向けた、サイドフィルモニター。
JBL PROFESSONAL “SRX712M”(2-Wayフルレンジ・スピーカー)
▼イヤーモニターとキューボックス。ステージ上に多数配置していました。
マイクロホンもスピーカーも一部の紹介でしたが、ステージ上のマイクスタンドの数やケーブルの多さからも規模や雰囲気を感じていただけたらいいなと思います。
もう最高!「ピンポン外交コンサート」
お待たせしました。ここからはコンサートのレポートです。
まず、開幕直前の場内アナウンスで「このプログラムは、演出上ピンポン玉が客席に飛びます。あらかじめご了承いただけますようお願いいたします」と宣言されました。
さらに「卓球とシンフォニックオーケストラの“カオスな世界”をお楽しみください」ときます。
ちょっと笑いそうになりながらも、観客の期待値は急上昇です。
楽曲はバイオリンのソロから始まりました。
シンフォニックオーケストラの演奏に、卓球台をも打楽器にしたリズミカルなパーカッションプレイが始まります。
早くもこの時点で、軽く度肝を抜かれました。
卓球の後藤奈津美さん(卓球選手)、坂本竜介さん(卓球プロコーチ)が登場。
ラリーを開始します。
ゆっくり始まったラリーは徐々に高速ラリーへ!!!
さらに、ラリーが続いている卓球台をパーカッションプレイヤーが打ち鳴らしたり、卓球台上のビンや鐘をチンッ、チンッ、ゴワァ~~~ンと独特のリズムで鳴らし畳みかけてきます。
この世界観
まさにカオス!!!!!
そしてシュール!!!
でもね、この公演、本当におもしろいと感じたのですよ!
もちろん「笑っちゃう~~~!」という面白さもあるのですが、コンサートとして、音楽として「音」がすごく面白い。
一回でも見れば、多くの人がはまってしまうと確信します。
卓球のラケットは、ラバーの種類が違うものやラバーのないもの、またタンバリン(大・小種類あり)やワイングラスまでラケット代わりにするなど曲の流れにあわせた「音の演出」が多彩でとても興味深かったです。
例えば、ワイングラスでラリーをするとこんな音・・・
(左の強弱は音量を表しています)
(強)カッ!!! (←ワイングラスとピンポン玉の打音)
(弱)コォ~~~ォ~~~ン (←間髪入れず、静かに鳴り響くワイングラス)
(中)タンッ… タンッ… (←ピンポン玉が卓球台でバウンド)
(強)カッ!!!(弱)コォ~~~ォ~~~ン
(中)タンッ… タンッ…
(強)カッ!!!(弱)コォ~~~ォ~~~ン
(中)タンッ… タンッ…
という感じのラリーが続きます。
この面白さ・・・文字では伝わらないのが心底くやしい。
ラリーが続いていたかと思えば、ピンポン玉が高く上がって、それを客席に向かってスマッシュ!!!とか(最初びっくりしました)、タンバリンで大太鼓に向かってスマッシュ!!!なんてシーンもあり。
えーっと、懲りずにまた文字にしますが、
トン・・・・・ (タンバリン(大)でピンポン玉を高く打ち上げる)
タンッ!!! (タンバリン(小)でスマッシュ!軽快な中高音)
ドォーーーーーン (ピンポン玉が大太鼓に命中し低音が響く)
トン・・・・・ タンッ!!! ドォーーーーーン
トン・・・・・ タンッ!!! ドォーーーーーン
トン・・・・・ タンッ!!! ドォーーーーーン
このほか、▼卓球プレイヤーの二人が銅鑼(ドラ)に向かって打ちまくる!とか
▼卓球台とラケットを平行にし、その間でボールを打って変速的な打音を鳴らすとか、さまざまな音とリズムがシンフォニックオーケストラの演奏とマッチして独特の世界観と音楽を作り出していきます。
この難しい卓球演奏(←あえてこう呼びたい!)とオーケストラ演奏が一つの音楽作品になるためには、精確な連動と一体感が不可欠です。
卓球のお二人はラケットを持つ方の耳にイヤーモニターをつけて、テンポをとるためのカウントボイスとCUE(進行のきっかけ)を聞きながらそれに合わせ、さまざまな卓球奏法を繰り出していきました。
素晴らしい演奏と見事なシンクロ。
音楽作品として完成度の高さは言わずもがなです。
このクオリティの高さが、また最高におもしろい。
PAのモニターシステムが陰で一役買っていました。
あと、こーゆー演出ですから、そこかしこにピンポン玉が転がってくるわけですよ。
ピンポン玉って床に落ちた後、一定の規則的なリズムを刻んで止まりますね。
コツン・・・・・・・
コツン・・・・・
コツン・・・
コツン・・
コツ、コツ、コココココココ………(止まる)
演奏に混じってステージや客席のあちこちから床に落ちたピンポンの音が聞こえてくるのですが、最終的にはこの音も込みでなんだか気持ちいい!
もう最高でした。
あっという間に公演が終了しました。
もっと聴いていたかった。
カーテンコールは、出演者がステージ上で横一列にならび客席に向かってピンポン玉を乱れ打ちします。
最初から最後まで斬新な演出で公演は幕を閉じました。
ブラボー!!!!!
今回、“クラシックコンサートのPA”としては規模の大きい音響システムが入っていたわけですが、出音(でおと)の印象は全く爆音とかではなくて(当たり前か?)客席で聴く楽曲は聴感上とても自然で気持ちよく、しかしながら完全な生音とは違うドラマチックな音楽に感じられました。
作品の世界観を実現するために時として不可欠となるクラシックコンサートのPA、奥が深そうです。
最後に、この度の取材にご協力いただきました「ピンポン外交コンサート」の制作、出演、関係者のみなさまに心よりお礼を申し上げます。
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