リアルタイム伝送&マルチスピーカーでコンサートを忠実再現!最新ネットワーク設備を活用した新しい音楽鑑賞 [可児市文化創造センター]

[投稿者:hiro]

今夏、岐阜県の可児市文化創造センターでピアノ三重奏コンサートが開催されました。

このライブと同時に行われたのが「コンサートのライブ再現」実験です。


可児市文化創造センターは、2002年にオープンした文化普及支援施設で大小2つの音楽ホールをはじめ、映像シアター、スタジオ、練習室など文化芸術の設備が整っています。

また、同館が2014年に導入した大規模なネットワーク・オーディオ・システムは、劇場・設備の関係者から注目をあつめており、全国から視察団が訪れています。


今回の「コンサートのライブ再現」実験は、「小劇場」で開催されているピアノ三重奏コンサートの音と映像を「映像シアター」という別会場にリアルタイムで伝送し、マルチチャンネル・スピーカーを使って再現するというもので、同館のネットワーク・オーディオ・システムを活用した試みでした。


この実験が、可児市文化創造センターの企画・主催のもと名古屋芸術大学、デジコム、ヒビノの協力で行われたことに加えて、当社でもAES67やDANTE(ダンテ)、RAVENNA(ラベンナ)、AVBなどネットワーク規格の話を最近よく耳にすることや、なにより“ライブの再現”という面白そうな試みに惹かれ、見学に行ってきました!



全ての人に音楽を!最新ネットワーク設備を活用した新しい音楽鑑賞の形

小劇場で開催されるのは「ウィーン V.ルジェリウスピアノ三重奏団」による、ピアノ、ヴァイオリン、チェロのコンサートです。


このコンサートの「音」と「映像」を離れた会場に送って同時に再現・上演するわけですが、たった今、開催されているコンサートを、別の会場で再現する必要があるのか?

それなら劇場で、実際のコンサートを鑑賞すれば良いのではないか?

という疑問がうかぶと思います。その答えがこの実験のポイントでもありました。


「コンサートのライブ再現」会場では来場者が自由に、各々のスタイルで“音楽を感じ、楽しむこと”が可能なのです。

来場者の多くは、同会館が招待した未就学児や障がいをもつ子どもたちと保護者の方々。

再現会場内での楽しみ方は自由ですから、お行儀よくじっと座っている必要はありません。

歩き回る、踊る、ステージに上る、「すごいね」「楽しいね」って気持ちを言葉にする、上映中に会場を出入りする・・・これ全部OKなんです!

クラシック音楽の鑑賞スタイルとしては、画期的なものではないでしょうか。


クラシックコンサート、オペラ、声楽、伝統芸能などの公演は、長時間、静かにしている必要があったり、上演中の出入りがNGだったり、未就学児は入場できない公演もあったりと大人ですら「敷居が高く感じる」と言う人もいるなかで、小さなお子さまづれの親子、障がいをお持ちの方、ご高齢の方などにとっては、条件に無理があったり心配があったりと、なかなか鑑賞できないのが実情です。


親子で楽しめるコンサートやマタニティコンサートなどターゲットを絞ったプログラムも全国で実施されていますが、今回、可児市文化創造センターが行ったのは、最新のネットワーク設備を活用した新しい音楽鑑賞スタイルへの試みでした。



各会場と機材

それでは「コンサートの再現」が行われた会場や機材について紹介します。


●小劇場(コンサートを収音する会場)

本物のコンサートが開催される会場です。

ここで演奏される「三重奏」を収音するため、ステージ、客席、天井にまで複数のマイクロホンが設置されました。

これらのマイクロホンで「楽器の音」と「会場に響く音(アンビエント)」を拾います。


まず「楽器の音」を収音するマイクロホンです。

ヴァイオリンとチェロには、それぞれ近距離から2本のマイクが向けられていました。

▼スタンドに取りつけたDPA Microphones d:dicate 4015

▼譜面台に仕込まれたDPA Microphones d:screet SC4061

ピアノには、フレーム内に DPA Microphones のピアノ用マイクロホンd:vote 4099Pが2本(ステレオ)立てられています。

ステージの前方(床)にも演奏音をねらうマイクロホンDPA Microphones d:dicate 4006ER が設置されました。

客席の頭上には2本のDPA Microphones d:dicate 4011Aが吊られていて、1本はステージ(演奏音)を、もう1本は客席側の空間(アンビエント)をねらっています。

「アンビエント」の収音は、コンサートの臨場感を再現するために欠かせません。

吊りマイクの他、1階席横と後方のバルコニー下に設置した6本のマイクロホンで、劇場の広さ、会場が持つ響き、お客様の拍手など、空間を忠実にとらえます。


▼バルコニー下にはDPA Microphones d:screet SC4061(譜面台に仕込んだものと同じマイク)が4本仕込まれており、客席の音を収音する

▼舞台全体をオフ・マイクロホンとして上手と下手から狙う、超指向性マイクロホン


●小劇場 ⇒ 映像シアター

小劇場に設置したマイクロホン全20回線分の非圧縮オーディオ信号と小劇場のステージを撮影した映像信号は、1本の光ケーブルを通って再現会場である「映像シアター」に伝送されます。


▼この細いケーブル1本でマルチチャンネルオーディオ信号と映像信号を伝送

館内の通路や屋外などを通って、約400mの光ケーブルが引き回されました。

▼映像シアターの映写室に引き込まれた光ケーブル


●映像シアター(コンサートを再現する会場)

小劇場から届いた「楽器の音」と「会場の音(アンビエント)」をスピーカーから再生してコンサートを再現する会場です。

ステージ上には「楽器の音」を再現する5台のスピーカーが設置されました。

▼ヴァイオリンの演奏を再現するCODA AUDIO “OMNIO5”(2-Way全指向性スピーカー)

▼チェロの演奏を再現するCODA AUDIO “OMNIO5”(2-Way全指向性スピーカー)

▼ピアノの演奏を再現するCODA AUDIO “D5-Cube”(2-Wayフルレンジ・スピーカー)×2台(L/R)、“G15-SUB”(サブウーファー)


「小劇場の空間(アンビエント)」は、客席側の壁面やスクリーン裏にある備え付けスピーカー11台と、天井中央に仮設したスピーカー1台で再現します。


▼壁面備え付けのサラウンド・スピーカー

▼天井中央に設置したCODA AUDIO “D5-Cube”(2-Wayフルレンジ・スピーカー)

スピーカーの真下だけでなく周囲に音が広がるように、スピーカーの正面を天井に向けて設置しています。


卓は持ち込みのミキシングコンソールSoundcraft “Vi3000”が使われました。

同じネットワーク規格に対応した機器なら、容易にシステムに組み込めること、柔軟なシステム構築が可能なこともネットワーク・オーディオ・システムの特徴ですね。

なお、今回のオーケストラの演奏を楽器ごとにマルチチャンネル収録してオーケストラの編成と同数のマルチチャンネルスピーカーで再生・再現するという仕組みは、この実験の協力メンバーであるヒビノのOB 宮本 宰さんが開発した「Sympho Canvas(シンフォキャンバス)」がベースとなっています。

とても面白いシステムなので、Sympho Canvasは、また改めて詳しく紹介しますね。



コンサート開演!空間をまるごと再現する臨場感に感動

映像シアターには、招待された子どもさんと保護者のかたが入場。

いよいよ開幕です。


▼ 映像シアター(コンサートを再現する会場)

▼ 小劇場(コンサートが開催される会場)

映像シアターでは、17台のスピーカーから発せられる1つ1つの音が空気中でミックスされ、コンサートを臨場感いっぱいに再現していました。

情感あふれる楽器の鳴りも、曲と曲の合間に劇場内に張りつめる静寂も、自分を包み込む音のリアルさに笑みがこぼれます。


ステージに上って、楽器の音を再生しているスピーカーに近づけば、アーティストが演奏中にどんな音を聴いているのかを疑似体験できました。

私も体験しましたが、それぞれの楽器が目の前で演奏されているかのような、あるいは自分が演奏者になったかのようにすら感じる迫力にワクワクします。


客席エリアも同様に、曲と曲の間では、咳払いのようなちょっとした音までもがくすぐったくなるくらいにそこに感じられて、目をつぶれば、まるでコンサート会場にいるような楽しい体験でした。


上演が始まった直後は少し落ち着かない様子だった子も、コンサートが進むにつれ、真剣に音楽に聴き入っていて、それぞれ、自分のスタイルで自由に楽しんでいた様子が心に残っています。


また、コンサート会場(小劇場)で、観客が演奏にあわせて手拍子をするシーンでは、再現会場(映像シアター)でも、子どもたちが同じように立ち上がり拍手をし始めます。

これは想像以上といいますか、予想もしていなかった一体感で、正直 驚きました。


空気中で混ざり合った音を全身で感じるという、生の演奏に近い音楽は、CDなどの鑑賞とは違った刺激をもたらしてくれるようです。


子どもたちの楽しそうな笑顔に胸が熱くなり、また保護者の方たちがとても喜ばれている姿も印象的でした。


今回のコンサートのライブ再現実験は無事に終演となり、技術面や新たな音楽鑑賞への試みの点で、各社、収穫を得ることができました。



ネットワーク・システムが現実的なものとなり“つながる”という実用化の面をクリアした今、可児市文化創造センターでは、今回のような実験をはじめ、ネットワークを活かした新しい音楽鑑賞の形に挑戦されています。

今後もネットワークの新たな活用方法を含め、同館の挑戦に注目したいです。


ヒビノとしてもネットワークの可能性は大きいものと捉えています。

音、映像、照明など、ネットワークの実用化の次のステップに目を向け、実験への協力・参加や、自社グループにて試験を重ねていく予定です。


さて、次回は50台のスピーカーを使用したマルチチャンネル再生でオペラのオーケストラを再現した兵庫県立芸術文化センターの音楽体験イベント

を紹介します。どうぞお楽しみに!