おはようございます!広報のhiroです。
前々回、前回に引き続き、2014年1月10日(金)にイオンシネマ幕張新都心 8番スクリーンで開催した「ヒビノ映画音響設備セミナー」のお話を紹介したいと思います。
今回は、日本に前例のない最新の映画館音響システムが、どんな風にできあがっていったのか、ヒビノの担当者が語った裏話なども紹介しちゃいます。
日本最初期!ドルビーアトモス対応の映画音響設備をご紹介
イオンシネマ幕張新都心 8番スクリーンの音響システムをプランニングするうえで追求したものは「最高レベルの音質」です。
まず、メインとなる「フロントスピーカー」は、JBL PROFESSIONALのシネマ用スピーカーシステムから、圧倒的なパワーと正確な再生性能でダイナミックな音響空間をつくりだすHigh Power ScreenArrayシリーズの4-Wayモデルが選ばれました。
スクリーンの裏に5本、設置されています。
余裕の出力とクリアな音質。フロントスピーカーだけでも十分に映画を楽しめる構成です。
そして、客席側に設置したサラウンドスピーカーは、JBL PROFESSIONALのAE Seriesから大型のフルレンジスピーカーを38本。
AE Seriesは、カバレージ角などの違いで、複数のモデルをラインアップしているので施設条件にあった音響性能を実現できます。
(客席側の左右の壁に各8本、後ろの壁に6本、天井の左エリアと右エリアに各8本)
実はけっこう大きくて、高さは70cm以上、重さも20kgちょっとあります。
天井から吊るすのに、何故こんなに大きい機種を選んだのか?
それは、もちろん「最高の音質」を得るためです。
ドルビーアトモスは、シームレスな音像の移動が必須となります。
フロントスピーカーからサラウンドスピーカーへ音像が動いたとき、そこに『音の継ぎ目』があってはいけません。
極端な例えですが、前(フロントスピーカー)から横(サラウンドスピーカー)へと『大柄な男性』の像が移動したとします。前では「低く太い声」だったのに、横へきた途端に音がやせて「軽い声」になっては、作品が描く人物像までも歪んでしまいますね。
そうならないためにも、低域から高域まで余裕の出力を備える大型のフルレンジスピーカーが必要だったのです。
これらの音響システムは、イオンシネマ幕張新都心 8番スクリーンに最高の音質を実現するべく、最高クオリティで設計したものですが、完成までにはいろいろな取り組みがありました。
建築までも動かした「最高の音質」の追求
実は、先にご紹介した音響設備の一部は、当初の建築設計では、入れることのできないプランでした。
ポイントとなったのは、天井の高さ。
当初、8番スクリーンの天井は、前が高く、後方に向かって低くなっていく形状で設計されていました。
全席で最高の立体音響効果を実現するには、天井の形が課題となり得ましたし、それより何より、一番の問題は天井に希望の大型フルレンジスピーカーをつけた場合、映画の光にスピーカーの影が入る可能性が考えられたこと・・・。
そんなの絶対ダメですよね。あり得ません。
となると、普通はスピーカーをもっと小型にするなど、音響設備が変更されるのですが、そのプラン変更は「最高の音質」からランクを一つ下げることを意味しました。
ドルビーアトモス対応の「最高の音響空間」をつくりたい・・・。
それで最終的にどうなったかと言うと、なんと 劇場の建築設計が変更されたのです。
天井の設計が変わり、十分な天井高が得られたことで、最高の音響プランが起用となりました。
既に決まっていた建築図面が、後から、しかも建築とは関係ない事由で変更になるなんてめったにないと言うか、まずあり得ないことなのですが、これはイオンエンターテイメント様の映画に対する熱い想い、それに尽きると感じました。
音響のプロとして、ヒビノの想いもまた同じ。
いよいよ音響設備の施工・完成に向けて走り出します。
「最高の音」に追求した絶対的な「安全」
ヒビノの担当者 日野原さんは、このシステムに対し「一番初めに思ったことは『危険だ』ということでした」と話しています。
先に書いたとおり、ドルビーアトモスに最適のサラウンドスピーカーは大型のものです。
つまり、重たいスピーカーを天井にいくつも付けることになります。
今回の場合、20キロのスピーカーを全16本の設計です。
日本は地震の多い国です。しかも、国内に同施設の前例はありませんでした。
そんな中、これだけのものを天井に吊るのですから安全には細心の注意が払われました。
チェックとテストが繰り返され、必要とあればオリジナルの部品だって製作します。
例えば、天井のスピーカーを吊るす金具は、ヒビノが設計・製作したものです。
金具に求めたのは「強度」と、1度単位の細かい角度指示に対応できる「自由度」、そして「コンパクト」な形状に仕上げるということでした。
普通、強度を上げれば重くなり、自由度を上げれば動作部分が増えて大きくなります。
それをコンパクトに仕上げるために、何度も設計と修正が繰り返されました。
デザインが決まり、製造を依頼した金具メーカーからも強度の保障を得ましたが、さらに、この金具を工業試験場に持ち込んで「強度実験」を実施。
結果、28倍の安全強度が立証されました。
スピーカー自体はメーカーが吊り下げを保障している製品ですし、当社のオリジナル金具も万全。
でも、スピーカーの前についているネットは、ネジで取り外せる仕様になっています。
真下を向けた設置を考慮し、ネジに緩み防止のロックをかけました。
さらに、万が一にもない事ですが、なにかの理由でロックもネジも外れた場合でも客席へ落下しないよう、セーフティーワイヤーで結ぶ対策を施しました。
まだまだ、安全の追求は続きます。
この落下対策は、機器の内側に施しているので、スピーカーの外見からは分かりません。
天井用に改良したものと壁用のものが、間違って設置されることがないよう、型番を新たに取得し、外見からの識別を可能にしました。
さらに、これらのスピーカーに音響テストを実施します。
映画館は365日稼働するもの。機器の故障は上映ロスを意味します。
使われる環境を想定し、連続して音を出したり実環境以上の動作を試したり、これをクリアしたスピーカーだけが、イオンシネマ幕張新都心に設置されています。
『壊れない機械はない』『壊れない道具はない』『ヒューマンエラーはおこる』これが大前提。
あらゆる危険とリスクを予測し、幾重にも安全策を講じて、さらにそれを疑ってみる。
この繰り返しが、安全を確かなものにしていきます。
ヒビノは、優れた海外ブランドの音響機器を輸入販売しています。
自社が取り扱う機材の品質、性能、そのよさは胸を張れるもの。これは確かです。
しかし、それを日本の環境、お客様の環境にあてはめたときに最適か、安全かを検証し、必要と判断すれば調整や改良をも行う。
機材を知り尽くしているからこそできるお仕事なのではないかなと誇らしく感じました。
音響を決定づける最終仕上げ!音響調整
機器の設置がすべて終わっても、まだ完成ではありません。
音の調整という、劇場の音響を決定づける重要な作業が残されています。
どんなに素晴らしい音響設備でも、設置しただけでは最高の音響空間にはならないのです。
映画館の音には基準があります。
これは「映画の作品意図を変えてはならない」という絶対条件を守るためのもので、簡単にいうと、映画館ごとに大きい音だったり、小さい音だったり、やたらと高音や低音がキツい劇場があってはダメですよ、ということ。
まず実施するは、スピーカーから出る音の「特性」を合わせる調整です。
音を電気的に計測し波形を確認しながら合わせていくもの。
特性が整えば完成か・・・?と思いきや、まだなのです。
音の高さ、大きさ、位相などの電気的に計れる要素は、この「特性」で正確な値を知ることができます。
でも、人間が聴覚でとらえる「音」には、電気的には計れない、ものすごく重要な要素があります。
それは「音色」です。
音色合わせという最終作業で、お客様が求める「音」に追い込んでいきます。
ここからは、専門知識やノウハウに加えて経験がものをいう卓越した技の領域です。
特性を壊すことなく、もちろん映画館の基準を満たした中で音色を合わせていきます。
これは、本当に職人芸と呼べる領域で、ノウハウのない人間がやるとせっかく特性を合わせた音場を結局めちゃくちゃにしてしまうそうです。
お客様立会いのもと、音の調整と確認が繰り返され、ついにお引渡しとなります。
本スクリーンで映画をご覧になられたお客様からも「いい音」とご好評をいただけているそうです。
はい。セミナーでおもしろい話がたくさん聞けたので、つい勢いにのって長々と書いてしまいました。お付き合いくださった皆様、本当にありがとうございます!
機会がありましたら、イオンシネマ幕張新都心 8番シアターの音響を味わってみてください!
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